今朝、家の庭で事件が起きた。クロッカスの花が無くなっていたのである。
今年は春めいてくるのが遅かったので、庭の花がなかなか蕾を見せなかった。この冬に青森市の知人からもらった紅梅の盆栽だけは、3月半ばにはかなり咲き始めたが、それは末頃までには散っていた。しかし、他の花は水仙にしてもチューリプにしてもクロッカスにしても、一向に成長してくる気配がなかった。
そんな中で、忘れかけていた少し大きめで浅い形の植木鉢に植えてあったクロッカスが、先陣を切って、花の中では最初に紫色の蕾をつけ始めていた。しかし、冷たい風の吹く日が多かったせいなのか、そのクロッカスの蕾はなかなか成長しなかった。開花するのはもう少し春めいてからだろうと、思っていた。
じつは、このクロッカスの鉢植えはもう枯れてしまったものと思って諦めていた。それで冬の間そのまま放っておいたので、土の表に枯れた草や紛れ込んだ小石などが混ざってしまっていた。先日、これはもう捨てなくてはと思っていたその矢先に、小さなクロッカスの芽が出ていているのに気づいてびっくりしていた。昨日も、紫色の小さいが元気そうな蕾を見せていたので、もう少し暖かくなれば綺麗な紫色の花が開くだろうと期待していたのである。

それが一夜開けて今朝になり、朝から春めいた日差しが差しきたので、今日こそは開花するだろうと思いつつふと庭先を見てみた。すると、何とクロッカスの蕾は消えていたのである。植木鉢はそのままいつもの場所にある。だがクロッカスの花が見えない。

庭に出て注意して見てみると、間違いなかった。クロッカスの花が消えていたのである。それもなんと花の部分だけが、捥がれたようになくなっている。妻とわたしは大変驚いた。いつもミステリーを観ている妻が、まず推理をし始めた。これはどうみても、動物が食べてしまったのではないだろうか。しかし、わたしは疑った。動物がクロッカスの花を丸ごと食べたりするのだろうか。第一動物だとしても、まさか最近また出没して初めている熊が、ここまでやって来てクロッカスを食べていったのだろうか。もしかしたら、野鳥だろうか。しかし、野鳥にしても、クロッカスの花を食べたりするのだろうか。
突然降ってわいた事件に、妻とわたしは事件の真相を巡って議論を始めた。こんな時は、そうだ今流行りの生成AIに聞いてみようと思いついた。早速、野鳥がクロッカスの花を食べたりするのか聞いてみた。すると、さすがにこういう時には生成AIは便利なものである。わたしたちもまったく知らなかったのだが、ヒヨドリやスズメなどは、クロッカスの花を食べることがある、という答が返ってきたのである。生成AIは間違えることもあるとはいうが、おそらく野鳥がクロッカスの花を食べることはあるのではないだろうか。
そう確信したのは、事件現場の状態がやはり野鳥説と矛盾するものがなく、それらしい痕跡が他にもあったからである。というのは、鉢植えの近くに食べられてしまったクロッカスの花びらが一枚落ちていたのである。おそらく嘴で突いたものの、花びらを一枚落としてしまったのだろう。ヒヨドリにしてもスズメにしても、嘴の形状からすれば、やはり花びらが一枚剥がれ落ちたとき、それを再度啄んで食するのは困難であろう。
こうしてさまざま状況証拠から、おそらく犯人は野鳥である、とわたしたちは確信するに至った。しかしその野鳥がヒヨドリかあるいはスズメかはたまたそれ以外の野鳥なのかについては、真相は闇に包まれている。
しかし、ただもう一つ、もし野鳥が犯人だとすれば、それを犯人扱いするのもちょっとかわそうだと思ってしまった。第一、クロッカスの花はその野鳥にとっては貴重な食料だったわけである。クロッカスの花は、少し前に近所の庭先で咲いているのを見たことは見たが、それはこの辺では珍しく早咲きのクロッカスで、その後は街を散歩していてもいまだほとんど見かけない。
つまり、クロッカスが大好きな野鳥だったとすると、春が遅くなかなか咲いてくれないクロッカスが、一輪蕾だけでも咲きそうなのを見つけたとするなら、それを食するなという方が酷な気がする。むろん開花を待っていたわたしたちにとっては残念ではあるが、その野鳥にとっては、とても美味しいクロッカスの花を食べられたのだから、それはそれでよかったのである。
こうして、我が家の今朝の事件は、最終的な真相究明はできなかったものの、蓋然的には、庭にきたいずれかの野鳥のご飯になった可能性が高いということで、一件落着した。
しかし、それにしてもこんな事件が身近に起こるまで、クロッカスの花を食べる野鳥がいるということなど想像したこともなかった。人生はいつでもそれまでまったく出会ったことのないような出来事に遭遇し、それを通して学び続けていく道程なのだと改めて深く気づいた1日であった。
追記:後で、普通の検索をしてみると、クロッカスが食べられることはよくあることだと分かりました。鹿もウサギもそしてもちろん野鳥も食べるようで、園芸に詳しい方々にはよく知られたことだったようです。まだ園芸を始めたばかりの私たちにとっては、まだまだ知らないことがたくさんあるのだと知りました。