ジョウビタキ

 昨日も朝の外気には秋の冷たさがあった。いつもより早めに散歩に出た。散歩がもっとも充実するのは早朝だ。登ってくる朝日と冷えた大気に触れながら、朝露がまだ残る草花を探しながら歩くのは爽快だ。

 官庁街通りの歩道沿いに花壇で、いつものように手入れをされている方たちとはじめて短く挨拶を交わした。これだけの花壇を春の初めから秋の終わりまで、ずっと手入れをして守っておられるのには、頭が下がる。

 午後になって少し蒸し暑くなったが、今度は二人で近くまで散歩をした。その帰り道、近所の保全公園を歩いていると、草むらにスズメに似た野鳥が、少し躓きながら跳ねているのを見つけた。

 スズメによく似ていたが、よく見ると左右に黄色の羽根が飾りのようにあり、あまり見かけたことのない野鳥であることは、すぐ分かった。後で調べてみると、ジョウビタキという野鳥の写真とそっくりだったので、間違いないと思った。そのジョウビタキは明らかに弱っていた。歩き方が躓きながらだったし、もう飛ぶことはできないように見えた。

 チベットからバイカル湖を経て、越冬のために日本までやってくる渡り鳥である。まだ幼く見えたこのジョウビタキは、少し早めに日本まで渡ってきたものの、この蒸し暑さは予想外だったのではないだろうか。

 暑さで弱ってしまい、もしかしたらその上、期待したような餌も見つからなかったのではないだろうか。保護はできないものか、市役所や県の合同庁舎に電話してみたが、無理だった。夜は冷えたので、ジョウビタキには過ごしやすいのではないかと思っていた。夜が明け、ジョウビタキがまだ保全公園の草地にいるかどうか様子を見ながら散歩に出てみた。しかし、もう同じ場所にはいなかった。

 地球の一周の何分の一かの距離を渡ってきて、日本のちょうどこの街のこの公園の草地で、ひとり群れから逸れてただ弱っていたジョウビタキのことを思うと、やはり他人事のようには思えなかった。

 人が人生で渡っていく途方もない距離は、じつは空間的な距離ではなく時間的な距離だ。はるか彼方の生まれ故郷から何十年にも及ぶ時間の旅によってやっと辿り着いた街で、ひとり静かに死を迎えようとするとき、たまたまそこで出会った誰かがしずかに見守ってくれたなら、それだけで安心できるのではないだろうか。

 ふとそんな思いがして、ひとり亡くなって行こうとしていたジョウビタキのことを、今朝になってもどうしても忘れることができなかったのである。

 

 

 

 

 

 

 

ハツユキソウ

 今朝(2024.9.16)は、やっと秋らしく空気が冷えた。朝ゴミ出しで外に出ると、かなり涼しかった。薄手の服では風邪を引くので、着替えをして散歩に出た。日中にかけて日差しが強まりそうだったので、上着は持たないことにした

 朝の冷たい空気が頬に触れるのを感じながら散歩するのは、久しぶりのことだった。いつもの官庁街通りに出て、広い歩道を歩いた。

 抜けるような秋の青空と冷えた大気を貫いて、紅葉の遅れがちな桜並木に朝日が差し込んでいた。

2024.9.16.
2024/9/16

  十和田市現代美術館が、まるで秋の青空に縁取られた一つの作品であるかのように見えた。

2024.9.16.

 風景を撮りながら歩いた後で、冷たいコーヒーを飲み、それから北へ向かって、稲生川沿を歩いた。

2024.9.16.
2024.9.16.

 適当に道を選んで、畑と住宅が混在するあたりを歩いていると、以前歩いたことのある道に出た。一軒の家の前で庭仕事の装いをした方が座っておられた。ふと気づくと、それは以前ハツユキソウが植っているのを見つけた家だった。

 最近フェイスブックの草花のグループではじめてハツユキソウを見て、その美しさに感動していた。ハツユキソウがすぐ近所の家の庭先に植っているのに気づいたのは、それから数日後のことである。

 今朝その庭先にいた方に、ハツユキソウの枝を一本頂けませんかとお尋ねすると、快く承諾してくださった。一本だけのつもりだったが、もっと持っていきなさいと言われたので、その言葉に甘え3本も枝を頂いてきた。

 ハツユキソウが挿し木で根付くのかどうか、よくは知らないが、ともかく家にある鉢に植えてみた。

2024.9.16.

 ハツユキソウの花言葉は「祝福」「穏やかな生活」「好奇心」だそうである。また英語の花言葉は、Purity(純潔)、Simplicity(簡素)、Serenity(静けさ)だそうだ。

 朝の散歩で偶然頂いたハツユキソウが、根付いてくれることを願っている。

 (一つ付記しておくと、ハツユキソウの枝を切ると白い樹液が出る。これには毒があるそうで、触れるとかぶれることがあると書かれている。わたしも少し触れてしまったが、幸いかぶれなかった。しかし切花などをするときには、手袋を使用するなど注意をした方がよい。)